MOTCHED!NIGHT!

食べて、飲んで、酒田を知る 地元で長年愛される「久村の酒場」を訪ねて

酒どころ・庄内には、その土地ならではの趣を感じさせる酒場がいっぱい!庄内にある酒場を訪れ、食べて、飲んでその魅力をお伝えします。今回は酒田の名店「久村の酒場」に行ってきました。

December 4, 2025

酒田を知るなら、まずは「久村の酒場」で一杯

「今夜は軽く一杯飲んで帰ろうかな」

寺町通に赤提灯が灯ると、にぎやかで肩肘はらずに楽しめる居酒屋の雰囲気が恋しくなります。

今回訪れるのは「久村の酒場」。酒屋に居酒屋が併設されていて、地元の常連さんたちはもちろん、酒好きで知られる文化人も多く足を運ぶ、酒田を代表するお店です。

その歴史は古く、酒屋としての創業は今をさかのぼること1863年。時は江戸時代も終わりを迎える幕末、奇しくも庄内藩の志士・清河八郎が深く関わったといわれる「新選組」の前身となる「浪士組」が京の都で結成されるなど、日本の歴史が大きく動いた時代でもあります。

そして戦前、戦後を経て昭和30年代からは酒屋とともに居酒屋も始められ、時代を超えて今日も酒飲みたちの談笑の場として愛されています。

私がまだ酒田に来るようになって間もない頃、酒田の居酒屋をよく知る人から「酒田のことを知りたいんだったら、まずは『久村の酒場』で一杯飲むことだね」と教えていただきました。

最初の一杯には、常連さん定番の一品を

居酒屋の営業開始は17時30分から。のれんをくぐって店内に進んでいくと、目に飛び込んできたのはレトロな趣を感じさせるガラス張りのコの字カウンター。そして、店主・久村とし江さんの優しい笑顔が出迎えてくれます。

カウンターに座ると、まるでショーケースのようにずらりと並んだ小鉢が。どれも美味しそうなので、一杯目のビールのお供は何にしようかなと迷っていると、近くに座っていた常連さんの「揚げゲソセットちょうだい!」という威勢の良い声が響きます。

そのいきおいにつられて、気がついたら「あ、僕も同じので!」と思わず注文していました。なんとも主体性にかけた選択でしたが、ビールとともに運ばれてきた小鉢を見て「これは大正解!」と実感。

この組み合わせ、最高です!

噛むほどに旨味がひろがる揚げゲソとふっくら香ばしい厚揚げは、まるで古くからの友達のようにビールとよくなじみ、その味わいを引き立ててくれます。聞けばこの「揚げゲソセット」は常連さんのリクエストから生まれた定番の一品とのこと。間違いないのない組み合わせ、どうりですいすいと導かれるようにお酒がすすむ訳です。

一日の終わり、疲れた体に旨味とアルコールが染み渡っていくこの感じ…たまりません。

「ああ、来てよかった」と、一杯目からすっかり気持ち良くなってしまいました。

地物と地酒を味わい、「庄内」で酔いしれる

ビールですっかり喉も潤い、気持ちよく酔いはじめたところで、求めるのは次なる美味。

お腹が空いていたこともあって「庄内豚の角煮」「カレイの天ぷら」を注文しました。

旨味たっぷり!
‍サクサクの衣が食欲をそそります!

庄内の豚はしっかりと旨味が詰まった肉質、そして滑らかで甘みのある脂身が特徴で、角煮にするにはまさにうってつけ。カレイは庄内浜を代表する魚で、天ぷらにすることでそのふんわり柔らかい身質と上品な味わいが際立ちます。つまりは、どちらも庄内ならではの美味をぞんぶんに堪能できる食材なのです。

気負いなく入れる居酒屋でも、地元産の上質な素材を活かした美味しい料理が味わえる。

「酒田を知りたいんだったら、まずは『久村の酒場』で一杯」という言葉が脳裏にうかび、思わずひとりうなずく私。

そして、せっかく地物の料理を味わうなら地酒で合わせたいというのが人情というもの。

壁には地酒が写真入りで張られているので分かりやすく、目に留まったのは「初孫 港月(こうげつ) 生詰」

グラスになみなみと注いでいただきました。

年に一度、庄内限定で発売されるというこの日本酒。生詰ならではの新鮮で豊かな味わいがリーズナブルに楽しめるということで、地元の人たちから晩酌のお酒として親しまれています。

生詰(なまづめ):貯蔵前に火入れを行い、出荷前には火入れを行わない日本酒のこと。まろやかな口あたりと爽やかな味わいが特徴。

すっきりした飲み口なので角煮や天ぷらともよく合い、お箸とお酌がどんどん進んでいきます。

気持ちよく酔っている間にも多くのお客さんが訪れ、いつの間にか店内は満席に。

てきぱきと注文に応える店員さんとお客さんとのやり取りを見ていると、居酒屋ならではの活気と人の温かさが心地良く、こんなところにも「久村の酒場」で飲む醍醐味があると感じられます。

常連さんだけでなく、この日初めてお店に訪れたというお客さんも。東京や宮城から来たという声も耳に入ります。

お客さん同士が気軽に交流できるのもカウンター席ならではの醍醐味。酔いが回って気持ちがほぐれたことと、とし江さんのお話しのふり方が上手なこともあってか、普段は見ず知らずの人と話すのは苦手な私も、気がつけば談笑の輪の中に。

常連さんも、初めて来た人も、おじさんも、お兄さんも、お姉さんも。みんな「酔っぱらい」という共通項でゆるくつながり、笑い合える至福のひととき。

美味しい料理とお酒、そして「居酒屋で飲む幸せ」を噛みします。

明日も仕事なのに確実にできあがりつつあることを自覚しながら、「ほろ酔い」のその先へと足を踏み入れていきます。

箸休めには、地域の文化が息づく旬の味覚を

酔いも回ってきたので、何かさっぱりしたものが口恋しくなります。そこで食べたくなったのは、この時期ならではの「もって菊」

秋刀魚ともって菊、秋の味覚の美味しい共演。

山形では古くから食用菊の栽培が盛んで、「もってのほか」という品種が特に有名なのだとか。その名前の由来には「思いのほか、とてもおいしい」と、「皇室の御紋である菊を食べるなんて畏れ多いから」という説があるというのも、奥ゆかしさとユーモアが感じられます。

一口含むと、絶妙なほろ苦さと香りが広がり、酔ってふわふわしている気持ちを整えてくれました。

お店の奥にあるお座敷席に目をやると友人の姿が。目が合うと手招きされたので、席へと向かいます。

なんでも「気になる料理があるけどボリュームが多そうだから、一緒に食べないか」とのこと。もちろん快諾です。

そして、運ばれてきた一品がこちら…!

「長芋の明太子チーズ焼き」

朴葉のうえに長芋をどっさり、その上にさらにたっぷりのチーズをかけて香ばしく焼きあげた人気の一品です。

一見するとピザのようにも思えるその見た目はなかなかの迫力。確かに2、3人でシェアして食べても良いくらいのサイズ感です。

シャキシャキとした食感に濃厚なチーズの旨味が絡むその美味しさに、先刻「もって菊」を食べて一旦落ち着いたはずが、最後にもう一杯だけ飲みたいという気持ちがわきあがってきました。

締めの一杯も日本酒で…、至福!

一度訪れたら、また訪れたくなる不思議な魅力

すっかり酔いも回り、真っ赤になった顔を友人にたしなめられたこともあって、本日の飲みはここでお開きにしました。

「久村の酒場」の営業時間は21時まで。あまりにも居心地が良く、ついつい長居してしまうからちょうど良い時間帯なのかもしれません。

「せっかくお店に来てくれたのだから、この地域、この時期ならではのものを味わってもらいたい」そう語る店主・とし江さんの言葉通り、夏はむきそば、冬には芋煮といった季節の料理や時期限定のお酒が楽しめるのも「久村の酒場」ならでは。

夏にはむきそばや、在来野菜である鵜渡川原きゅうりも。

一度訪れたらまたのれんをくぐりたくなる、そしていつしか常連さんになっていく。

そんな不思議な魅力と懐の深さが「久村の酒場」にはあります。

昔ながらの居酒屋の良さを今に伝えるこのお店に、あなたもぜひ足を運んでみてください。

この記事を書いたヒト
エンドウ ジュン
ライター/カメラ:酒田在住。
庄内の美味しい食べ物をこよなく愛しています。
故にダイエット中ですが結果は出ていません。
この記事を書いたヒト
石澤 マナカ
デザイナー/ライター:純度100%の鶴岡市民
「何事も見て・やってみる」がモットーです。
民芸品や立体造形に興味があります。
この記事を書いたヒト
長澤 久美
ライター:酒田在住の一児の母、子育て奮闘中
大食いなのでいろんなお店へ通っています。
いろんな人の話を聞くのが好きです。
この記事を書いたヒト
庄司 あやの
デザイナー/ライター:生粋の酒田っ子。
食べることが大好きなため食事制限を諦め運動中。
自然と動物に毎日夢中。
この記事を書いたヒト
佐藤 太一
ライター/カメラ:3年前に仙台から移住。
住居の目の前がお墓で夜が少し怖い。
ビジネスホテルでお湯を沸かすのが好き。
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